水上泰生(みずかみ たいせい)
1882年-1951年 福岡県出身
様々な植物や鳥を研究し、鯉を描いた名人
水上泰生は、花鳥画を得意とした画家の1人です。 花鳥画とは、花や草木などの植物と、鳥や昆虫のような小さな生物を組み合わせて描く絵のジャンルのことです。季節ごとの草花や生き物がいきいきと表現される花鳥画は、家の中にいながら四季の移ろいを楽しむことができ、昔からたくさんの画家が描いてきました。
花々のさまざまな色や形、鳥の羽の模様、虫たちの繊細な動きなど、自然界のものを魅力的に描き出すには、対象をよく観察し理解を深めることが欠かせません。 泰生は他の画家がそれまで取り上げていなかった高山植物やめずらしい鳥にも眼差しを向けました。熱心に写生し、研究する姿は「博物学者か地理学者のよう」とも言われ評価されました。琉球や樺太へ出かけ、普段目にする景色とは異なる珍しい題材をとりあげることもありました。
《山々の装ひ》1917年 絹本金地着色 各172.0×373.0cm 福岡県立美術館蔵 |
泰生は自然を観察した結果を画面にそのまま写しとっただけでなく、どうしたらモチーフが映えるかを考え、細かく華やかに、ときに大胆に力強く、自然の様子を生き生きと描き出しています。六曲一双屏風や襖などの大きな画面に描くことを得意とし、大作を毎年展覧会に出品し続けた時期もありました。
《山葡萄図》 制作年不詳 絹本着色 各177.5×370.8cm 福岡県立美術館蔵 |
花や葉をぎゅっと密集させる、前後に重ねて奥行きを出す、わざと隙間をある、など、画面全体のバランスを考えて描いています。友人の家の襖に描いた時は、ゆったりした気持ちでくつろげるように、他の屏風などと比べて余白をたっぷりとって、季節の草花を描きました。
《夏秋草花図襖》 紙本着色 制作年不詳 各169.0×93.0cm 福岡県立美術館蔵 |
そんな泰生が生涯をとおして描き続けたのが、「鯉」です。
子どもの頃から川で魚捕りをして遊んでいた泰生は、滅多に見ることができなかった鯉に強い好奇心を持っていました。大人になってもその想いは続き、鯉を描いた作品をいくつも残しています。
人間の手で育てられた、日本庭園の池を優雅に泳ぐ色鮮やかな鯉を眺めることが好きだった一方で、自然の川に住むどっしりとした体つきをした貫禄たっぷりの鯉に対してはその威厳に感心を寄せていました。
《群鯉二態》 1936年 紙本着色 各168.3×373.2cm 福岡県立美術館蔵 |
たくさんの鯉の絵を描き「鯉の名手」とうたわれたにも関わらず、泰生は「会心の作を発表し得ないことを遺憾とするものである」(今風に表現すると「これだ!という作品をまだ描けてないのが、不本意だ。」)との言葉を残しています。